人形の家族(sample)


  遠藤の様子がおかしい……
 発端は……今思えば2ヶ月くらい前のことだ。
 現在宿無しのカイジは、遠藤のマンションになし崩し的に居候しているのだが、そのカイジが風呂を使おうと服を脱いでいる最中に遠藤が入ってきた。
 一緒に風呂にはいるつもりかと、わずらわしくもあり、でも心のどこかはちょっぴり期待に疼いたわけだが……
 遠藤はカイジを背後から抱きしめると、裸の下腹部にそっと手を当てた。
 なにをするわけでもない。それだけである。
 その手の温もりは、ただひたすらに優しかったのだが……
 「何?」
 怪訝に思いつつそう問えば、洗面台の鏡の中で、遠藤は幸せな夢から覚めたように、一瞬寂しげな目をした。
 「いや……なんでもない」
 そういいながら、バツが悪そうに遠藤は脱衣所を出て行ってしまい、そのときはカイジも、少し疲れてるんだろう……くらいしか思わなかった。
 だが……
 また、その日を境に、徐々に夜の営みの様相が変わっていったのである。
 それまでは乱暴に……つい習慣的に抵抗してしまうカイジを相手にすれば、そうならざるを得ないのだが……貪るように求められていたのに、そこまでされることはほとんどなく、したらしたで、なにやらひどく優しくされる。
 なにか裏でもあるんじゃないか?とも思うが、どうもそういった類ではないらしい。
 ただ情事の後、遠藤がカイジの腹部に耳を当てて眠ってしまうのには、やはり違和感を覚えた。
 なんかドラマなんかのこういう構図って…妊婦に対する旦那とかでないっけ?
 ありえねぇ…と、カイジは一つ溜め息をついた。
 今日もカイジの腹を撫でながら、安らかな顔で眠る遠藤を見て、ああでもやっぱりドラマなんかだと、しんどいことがあったとき、くたびれた男は女の腹で泣いたりするから、そのかわりなのかなぁ…などとカイジは思い、遠藤の短く硬い髪を撫でる。
 自分がその安らげる場所になっていると思うと、くすぐったいような…それでも少し嬉しかった。
 その平穏は偽りであることもしらぬままに…











 ※ サイトの小ネタ『貴方様に捧げます』の続きです……あちらはお笑い風味だったのに、なぜか重たい話になっております。
   本文は縦書2段組のため、若干読みやすいかと思います。